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継続 関東地方

大切なのは「自分たちも楽しいこと」。多様な参加者がお互いを尊重し、のびのびと過ごせる放課後の自由空間

エリーズカフェ こども食堂 代表 小林 貴大さん/横山 万緑さん(神奈川県川崎市)
名称
エリーズカフェ こども食堂
開催場所
神奈川県川崎市宮前区菅生ヶ丘23-6
開催頻度
毎月第 3 木曜日

学校帰りの小学生と障害福祉事業の利用者さんが、お互いを尊重しながら「一緒に遊べる仲」へと変化!

――こども食堂を始めたきっかけを教えてください。

小林さん:元々この場所にあったカフェが閉店することになり「ここを引き継いで、新しく何かやらないか?」とお声がけいただいたことがきっかけです。そこで、これまでの経験を活かし、障がい児・障がい者の一時預かりや相談など、障害福祉サービスの事業を始めようと思い立ちました。ちょうどそのタイミングで「こども食堂」の存在を知って一緒に始めたら面白いかと思い、事業と同時にこども食堂も開始しました。2021年10月に開始して、3年が経ったところです。

――1回目の開催はいかがでしたか?そこからどのように参加者が増えていったのでしょうか?

小林さん:まずは利用者さん・スタッフが楽しく過ごせることを一番の目的に考えていました。初回はチラシを見た子どもたちが何人か来てくれて、それから口コミでどんどん人が増えていきました。2回目には人が多すぎて店内に入りきらなくなり、3回目からはテイクアウトで食事を持ち帰ってもらうようになりました。それ以来、事前に申請をして近くの公園を利用しています。子どもたちの口コミパワーはすごいですね(笑)。

――現在、こども食堂では、どのような活動をしているのですか?

小林さん:毎回、テイクアウトでカレーを150食くらい提供しています。夏にはかき氷を提供することも。また、こども食堂の開催日にはフードドライブも開催し、食材・食品・お菓子などを配っています。

学生のボランティアも手慣れた様子で大量のカレーを作っていました

――継続するにあたって、大変だと感じたことはありますか?

小林さん:一時期はこども食堂以外の日にも学校帰りに子どもたちが来るようになりました。嬉しくてスタッフも最初はかまっていたのですが、毎日学校帰りに10-20人が押し寄せて遊び場のようになってしまい……。嬉しい気持ちはありつつも、困ったなと(笑)。

横山さん:利用者さんと子どもたちが自然に遊べるようになればいいなと思っていたのですが、はじめは、ケンカになってしまったりと、うまくいきませんでした。利用者さんの中には子どもの声や大きい声が苦手な人もいるため「子どもが来るなら、ここに来るのが嫌」となってしまう人もいました。

――この地域には、他に遊び場が少ないのですか?

小林さん:学童、こども文化センター、大きい公園など色々とあるなかで、自分たちで場所を選んで放課後を過ごしているようです。おそらくここは自由度が高いのでしょうね(笑)。

――お兄ちゃん・お姉ちゃんのところに遊びに来ているような感覚かもしれないですね。利用者さんと子どもたちの関係は、そこからどのように変化していったのですか?

横山さん:利用者さんも子どもたちも我慢せず、快適な居場所にするためには何が最善なのか?何度も話し合いを重ねました。子どもたちには「普段ここは色々な人が利用していて、大きい声が苦手な人もいるよ」と伝え続け、「ここにきたら、ちゃんと挨拶をする」「大きい声を出さない」などのルールを決めたところ、次第に子どもたちも理解してくれるようになりました。ここ1年くらいで変化が見られ、今では小学生と利用者さんが一緒にゲームをして遊んでいる風景も見かけます。以前ならすぐにケンカになっていたのに、一緒に遊んでいるのはすごいなと。お互いに変わっていくんだなと、見ていて本当に感動します。

――自由ななかにもルールが必要ということを学んだのですね!ここは子どもだけで来ることが多そうですが、ご両親とのコミュニケーションはあるのでしょうか?

横山さん:最初は子どもたちだけが来ていたのですが、徐々にお父さん・お母さんも来てくれるようになりました。毎月1週目に開催している「エリーズナイト」には、保護者と事前にやりとりをした上で来てもらうので、個人的なコミュニケーションをとるようにもなりました。そのなかで何人ものお母さんから「子どもたちが安心して過ごせる場所になっているので、助かっています。」などとメッセージをいただきました。ご両親も安心して「あそこなら、行ってきていいよ」と送り出すことができる存在になっているとわかり、とても嬉しかったですね。

すべての基準は「楽しんでいる」かどうか。エリーズカフェに関わる人みんなが「楽しめる」場所づくりを追求したい。

取材に伺った日は夏祭り!参加者もスタッフも一緒になってお祭りを楽しんでいました

――継続する上で、資金面でのご苦労はありますか?

小林さん:助成金などで、食材費はほとんどまかなうことができていますが、人件費に使うことができないのがネックではありますね。私たちは、ドリップコーヒーの販売に取り組んでいて、障害福祉事業の利用者さんたちやここに来る子どもたちと中身のコーヒーを作ったり、手書きでラベルに絵を描いて仕上げます。これを近隣の十何か所かで販売しているので、売上げの一部を子ども食堂の運営費に充てています。ゆくゆくは助成金がなくても運営していけるようになればと考えています。

ひとつひとつのパッケージが個性豊かなドリップコーヒー

――子ども食堂を続けてきた中で、忘れられないエピソードはありますか?

小林さん:立ち上げた当初は「こども食堂とは何なのか?」が明確にわからないまま始めていたので、周りの人から「困った子を助けているんでしょ」などと言われ、「そんなことはしていないのにな…」「そういうことをしたほうが良いのかな…」「自分は何のためにやっているんだろう…」などとモヤモヤ悩んでいました。

そんななか、湯浅誠さん(むすびえ理事長)の論文や本を読んで、こども食堂は貧困対策の側面もあるけれど、すべてがそうではないとわかりました。著書の中で、こども食堂に来る子どもたちを信号にたとえていて、黄色信号の少し危うい子が青信号の普通の子の顔をして来られる場所がこども食堂なんだと。それを読んで「貧困対策のこども食堂では成り立たない。あそこに行ったら貧困だと言われるなら、子どもたちも行きたいと思わない。こども食堂は、色々な子が普通の顔をして来られる場所なんだ。自分のやってきたことに間違いはない」とすごく腑に落ちて、モヤモヤを解消することができました。

いつか湯浅さんに会って「自分の論文を渡す」というのを目標に掲げていたところ、お会いできる機会があって。自分の活動について湯浅さんにお話しもできて、本当にうれしかったです。こども食堂をやっていてよかった、これからも続けたいと思いました。

――今後、大切にしていきたいことは?

小林さん:ここで働いているスタッフみんなが、楽しく働いてくれる場所をつくることが、自分の中での一番の目標です。現在は横山に多くの面を任せているのですが「やりたい」「回数を増やしたい」などと積極的なので、嬉しい限りですし、どんどん活躍してほしいと思っています。運営している私たちが楽しんでいるかも大事ですよね。

横山さん:最初は「やらなきゃ」という感覚もありましたが、今は子どもたちに遊んでもらっている感覚です。来てほしくて、遊んでほしくて、声を掛けてほしくて、覚えてほしくて。来てくれるのがとにかく嬉しいんです。だから、これからも続けたいと心から思っています。

小林さん:ボランティアさんにも沢山来ていただいていて、大変助かっているのですが、ボランティアなので、当然来られるときもあれば来られない時もあります。でも「ボランティアさんがいないと回らない」「行かなきゃいけない」という状況になると、自発でなく強制になってしまい、つまらなくなるだろうと思います。ですから、今後もボランティアさんに無理強いすることなく、楽しく皆さんに参加していただけるよう「最適な規模」を意識しながら続けていきたいと思っています。関わる人みんなが楽しめる場所づくりをこれからも追求していきたいですね。