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継続 関東地方

「絵本の時間」は親子を繋ぐ「魔法の時間」。忙しいみんなの毎日に、あたたかな愛情で家族に寄り添う、地域の居場所。

代表 加崎 悟志さん(後列中央)、副代表 加崎 湖都美さん(前列中央)
名称
〇△□(まるさんかくしかく)子ども食堂
開催場所
埼玉県三郷市鷹野1-495(清浄寺三郷分院)
開催頻度
月2回

忙しい毎日の中でおきる、親子の気持ちの行き違い。「今こそ何か力になりたい!」親子の笑顔の為に、こども食堂の立ち上げを決意。

――こども食堂を始めようと思ったきっかけについて、教えてください。     

湖都美さん:約十年前、何気なくテレビを見ていたときに「こども食堂」の存在を知って「素敵!私もやりたい!」とピンと来たんです。ただ、自分の子どもを育てた経験しかなかったので「いつかこども食堂を運営するために、まずは児童クラブで働こう」と思い立ち、児童クラブで約9年間勤務しました。

その児童クラブには200名くらいの子どもがいたのですが、苛立った様子で言葉遣いが粗い子も多く、最初は衝撃を受けました。子どもたちは日常的にイライラしていて荒れていて、トラブルを起こしがち。お母さんは「なんで先生に迷惑をかけるの?」と子どもを怒りながら連れて帰る。家に帰ったら、すぐに宿題をしてご飯を食べて、お風呂に入らなくてはならない。しっかりと向き合う時間もないまま、次の日に送り出す。そうすると子どもは愛情を十分に感じられずささくれだち、また同じことの繰り返し……。忙しい毎日の生活で、親子の気持ちの歯車がうまく回っていないことに気づいたのです。

そんな子どもたちも、一人ひとりと話しているととても良い子ばかり。私の膝の上にのせて本を読んであげると大人しくなったり、体をくっつけて甘えて来たり。注目してほしくて、わざとやんちゃをしているのだと感じました。親子のために自分にできることは何か?と考えたときに「今こそこども食堂だ!」と。「ご両親がゆっくり子どもと向き合って話す時間をもつお手伝いができれば」との想いから、立ち上げに向けて動き始めました。

――この場所はお寺ですが、どのようにして見つけたのですか?

湖都美さん:最初は私たちが住んでいる茨城県守谷市付近で場所を探していたのですが、なかなか良い場所が見つけられませんでした。夫の出身である埼玉県で探そうと思い立ち、「埼玉県子ども食堂ネットワーク」に所属して、アドバイザーさんから何件か候補をご紹介いただきました。そしてお見合いをするなかで、清浄寺さんに巡り合うことができました。偶然にも、こちらの住職さんが義理の父の古くからの知り合いの方で!良縁に恵まれ、この場所にすぐに決めました。

悟志さん:集客や認知については、アドバイザーさんや子ども政策室・PTAの方にお力添えをいただいて小学校でチラシを配ったり、チラシをポスティングしたりしました。スタートして1年後には、郵便局にチラシを置かせていただけるようになり、つながりをきっかけに寄付もいただくようになりました。

――「〇△□(まるさんかくしかく)」というユニークなネーミングの由来は何ですか?

 悟志さん:〇△□というのは「人それぞれに個性がある。みんな違ってみんないい」という意味を形にたとえた表現です。色々な人に来てほしいというメッセージを込めて、名づけました。

――〇△□子ども食堂の活動内容について教えてください。

湖都美さん:お弁当の配食は毎回約60~70食を配っています。加えて月1回の昼食会ではホットプレートでお好み焼きやフランクフルトなどをふるまったり、縁日やハロウィンパーティーを実施したり季節に合わせたイベントを実施しています。

私は絵本専門士なので、お弁当の配食時にも絵本が読めるように会場を開放しています。絵本を読んだら感想を書いてガチャガチャができるようにしていて、それを楽しみに来てくれる子も増えてきました。

――とても素敵な取り組みですね。絵本を通じて、親子にどんなことを伝えているのでしょうか?

湖都美さん:「絵本は心のごはん」というメッセージを、伝え続けています。毎日忙しいなか、子どもに愛情を伝えるのは難しいと思うのですが、寝る前にたった1冊・たった5分読むだけで気持ちがまったく違います。怒りながら絵本を5分読みつづけるのは難しいので、最後には親子ともに心がスッとなって、絵本を閉じることができます。最近では「うちの子、絵本を好きになりました」「私も絵本が大好きになって、子どもが小学生になったから読み聞かせボランティアに登録したんですよ」などの声が届くようになり、絵本の力が伝わったと感じられてとてもうれしくなります。

こども食堂開催時には、湖都美さんが持参した絵本が並ぶ

――通常開催以外に、イベントも開催されているのですか?

悟志さん:年に1度、埼玉県のネットワークのサポートを受けて、イベントを催しています。過去にはバスを貸し切って、おせんべいづくり体験、芋ほり、サッカー場見学などに行きました。コロナで遠足も中止になっていた期間でしたので、「バスに初めて乗れて嬉しい」なんて子もいましたね。

湖都美さん:芋ほりに行った当時は2歳だった男の子が、幼稚園になっても覚えていてくれて「また行きたい」と言ってくれたり、おせんべいづくり体験のときは、1年生の男の子がバスを降りて寄ってきて「ことさん、次はいつ?」と。子どもたちがみんな目を輝かせて喜んでくれて、嬉しかったですね。

悟志さん:私自身、住宅のデザイナーをしており、妻も元々はインテリアコーディネーターとして働いていましたので「生活を少し丁寧にするだけで、毎日がこんなに楽しくなる」ということを伝えたくて、陶芸や工作など、ものづくりのワークショップも定期的に開催しています。そうした非日常の体験が、子どもたちの好奇心を刺激するきっかけになれば嬉しいですね。

――運営スタッフとしては、お二人以外にどのような方が参加されているのでしょうか?

湖都美さん:最初は私たち夫婦とボランティアさん3名の計5名でスタートし、そのうちにInstagramやイベント等で認知してくださった方が、少しずつ仲間に加わってくれました。ボランティアの皆さんは「これからの人生をどんな風に生きていこう?」と前向きに自分探しをしている人ばかりです。「いつかこども食堂を運営するためにここで勉強したい」と遠方から参加してくださる方もいて、とても心強いです。

焼き立てのお好み焼きやフランクフルトが楽しめる、恒例のホットプレート昼食会

「お父さん、お母さん、毎日子育てをがんばってくれてありがとう」。この場に集う皆さんともっとつながり、もっと寄り添っていきたい。

――現在5年目ということですが、こども食堂を継続する上で大変だと感じる点はありますか?

湖都美さん:当初はここで食事を提供する予定だったのですが、コロナがあり、急遽お弁当を作って配食することになりました。大人数のお弁当を作ったことはないし、食中毒を出してしまったらどうしようと、一瞬パニックになったのですが、ボランティアさんたちに助けていただき、だんだんと効率よく用意できるようになりました。手際の面では慣れてきたのですが、私たちも決して若くはないので、30キロのお米を運ぶなど、今後、体力面の不安はありますね。自宅とここが離れているので、車の運転ができないとこころまでは来られません。いつまでできるか……という不安はありつつ、まだまだみんなの成長を見たいので、頑張ります!

悟志さん:一緒に遊んでいるときの子どもたちの笑顔が忘れられなくて。「子どもたちにまた会いたい」「こども食堂がなくなってしまったら、子どもたちに申し訳ない」という気持ちが根底にあるので、大変なことがあっても頑張れます。

湖都美さん:最初にスタートしたときに「途中で投げ出すのは絶対に辞めようね」と二人で約束しました。ここを楽しみに来てくれる人が一人でもいるのなら、続けていこうと。皆さんをこれからも見守っていきたいです。

――お二人は「子どもたちのご両親」とのコミュニケーションも大切にされていますよね。継続する中で、どのような関係性を築いてきたのでしょうか?

悟志さん:5年目になるので、スタートのときに赤ちゃんだった子が、今はもう5歳。自分の子どもではないのですが、一緒に育てている感覚があります。また5歳の子のお母さんは「お母さんになってから5歳」だと私たちは思っています。「子育てをよくがんばっているね」と。

湖都美さん:本当に、お父さんもお母さんもかわいくて仕方ないですよ。普段、LINEで予約を受け付けているのですが、育児の悩みや嬉しい報告などプライベートなメッセージを送ってくださることもあり、とても嬉しく思っています。少しでも心が軽くなれば嬉しいし、もっともっとつながっていきたいと思っているので、メッセージをいただいたら必ず返信をするようにしています。私のことを「お母さん」って呼んでくれる人もいますよ(笑)。「お父さん・お母さん、来てくれてありがとう。毎日、子育てをがんばってくれてありがとう」っていつも伝えています。

――今後、取り組んでいきたいことはありますか?

悟志さん: 今、茨城県の自宅を二人でリフォームをしています。一日何組か限定のお客様がいらっしゃり、ゆっくりとお話ができる「こども食堂のできるカフェ」のような場所づくりをしたいと考えています。湖都美さん:子どもの居場所を増やしていきたいというのもありますし、ここに来て大きくなった子どもたちが「第二の故郷」のように自宅に遊びに来てくれたらと思っています。まだまだ私たちも成長の途中です。ここに来てくれる子どもたち・お父さん・お母さん・ボランティアさんと一緒に、私たちも成長していけるといいなと思っています。

――お二人のような方が地域にいらっしゃれば、子どもだけでなくて親もニコニコできる。こども食堂にはいろいろな可能性があると改めて感じました。本日はありがとうございました。