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継続 近畿地方

自分たちの活動が少しでも明るい未来へとつながったら。パワフルな夫婦が運営する、「秘密基地」のような屋外型こども食堂

HALE ONO 代表リチャード・ホーキンスさん/ラニさん(大阪府豊中市)
名称
HALE ONO( ハレオノ)
開催場所
大阪府豊中市若竹1丁目
開催頻度
毎週月・水・金 ※時期により異なる

時代が変わるなか、社会全体で子どもたちを見守っていく必要がある。開放的な空間で食事と会話を楽しめる「みんなの家」

――「秘密基地」のようなとてもユニークな場所ですね。この場所とはどのように出会ったのでしょうか?

リチャードさん:私は1983年に来日した後、ホテルとレストランの経営管理に携わって18年間働いていました。さらにハワイに移住してガイドとして働いた後、日本に戻ってガイドのビジネスを立ち上げました。しかし、コロナの影響でキャンセルが相次ぎ、元々住んでいた場所から豊中市へと引越すことに。引越した家の裏に「ジャングルのような空き地」を見つけ、妻が庭を広げたり、私がハワイアンバーベキューをしたりするのに最適な場所だと思い、オーナーと交渉をして、格安でお借りすることになりました。

――この場所で、こども食堂を始めようと思ったきっかけを教えてください。

ラニさん:ちょうどその頃、私が新聞で「この豊かな日本で、7人に1人の子どもがおなかをすかせている」という記事を読んで衝撃を受け、「自分たちにできることって何かな?」と考え始めたのがきっかけです。彼は元々、ホテルのレストランでシェフをしていて料理が得意なので、今は子ども向けにハンバーガーを作って提供しています。また「子どもたちが公園で遊んでいると、うるさいと怒られる」などという話も耳にし、窮屈な思いをしている子どもたちに「自由な遊び場」を提供できればとも考えました。

ーーちなみに「HALE ONO」のネーミングの由来は?

リチャードさん:ハワイ語で、HALEは「家」、ONOは「おいしい」を意味します。「食事」とアットホームな雰囲気を表す「家」というキーワードを合わせて、名前を考えました。

ーーご自身のお仕事も大変な状況の中、地域の子どもたちのために動くには、相当のパワーが必要だったのではないですか?

リチャードさん:コロナは家計にも影響が大きく、この地域では共働き家庭が増えました。小学校は14時半に終わるけれども、家に帰っても誰もいない。放課後を家で一人で過ごす「鍵っ子」が増えていくと、人と関わらなくなったり、おなかが減ったりして、なかには悪いことを考えてしまう場合もあります。でも誰かが見ていれば、行いに気をつける。時代が変わるなか、社会全体で子どもたちを見守っていく必要があると感じました。また、周りの人たちにも、もっとその重要性を伝えたい。そうした想いから2022年3月20日にHALE ONOをオープンさせました。

ーー今それから3年目を迎えられています。これまでにどんな苦労がありましたか?

リチャードさん:オープン当初、毎週20人くらいの子どもたちが来る想定でした。特に宣伝はしていなかったのですが、子ども同士の口コミで自然に増えていき、今は嬉しいことに毎週30~90人くらいが来てくれています。そのため、常に人手が足りていません。たくさん子どもたちが来るので、慢性的に人手が不足しています。また想定外の規模になったことで、我が家の家計がひっ迫したことも……。こんなに規模が拡大するとは思っておらず、資金面での苦労は尽きません。

ラニさん:HALE ONOの運営だけでなく、仕事もしているので、基本的には17時までの運営にしたいのですが、時間が過ぎていてもおなかをすかせてやってくる子もいるので、受け入れているのが現状です。

ーー子どもたちの口コミはすごいですね!ということは、お子さんだけでやって来ることが多いのでしょうか?

ラニさん:来ている子どもの大半は小学生で、子どもだけで来ますね。下の妹や弟がいれば、一緒に連れてくることもあります。学校が終わり、夕方に習い事へ行くまでの間にうちに来て、何か食べて休憩して「行ってきます!」と帰っていく子が多いです。

リチャードさん:今は月曜日、水曜日、金曜日の午後にオープンしていて、インスタントラーメンを食べることができるようにしています。加えて、水曜日は本場仕込みのハンバーガーなどを調理し、子どもたちに提供しています。国産のお肉を使い、ソースも手作り。こだわって作っていますよ!

ーーInstagramでは、季節ごとのイベントも紹介していますね。

リチャードさん:クリスマスパーティー、ハロウィンパーティー、サンクスギビングデー、芋掘り体験、いちご祭り、流しそうめんなど、季節のイベントを行っています。昨年のクリスマスパーティーでは、アメリカの伝統的な料理を食べてほしくて友人が狩猟したイノシシを焼いて食べたりもしましたよ!。子どもたちはとても楽しそうで「こんなの食べたことない!」と大喜びでした。楽しいのはもちろんですが、ここで色々な体験をしてほしいと考え、企画しています。

ーーアイヤナちゃん(娘さん)も、一緒に毎回参加するんですか?

ラニさん:はい、いつも参加しています。娘は最近、日本語も英語もできるようになってきたのですが、先日「(HALE ONOで)小さい子どもたちに、英語の読み聞かせをしたい」とすごく良いアイデアを話してくれました。この場でのコミュニケーションを通じた彼女の成長も感じられ、嬉しかったです。

ラニさん(左)と娘のアイヤナちゃん(右)

ーーHALE ONOを継続する中で、子どもたちの変化はありましたか?

リチャードさん:HALE ONOのゲートを入ったら、みんな私の「子ども」。注意もするし、褒めるし、大事にします。子どもたちもそれがわかっているので、喧嘩した後は泣いてHALE ONOに来て、私たちに相談をしてくれます。「大丈夫、大丈夫」と話を聞くと気持ちが落ち着いて、笑顔で帰宅していきます。子どもたちがここをどんな存在として思っているかはわかりませんが、この場所を頼りにしてくれているというのは確かに感じますね。

ラニさん:この地域の子どもたちの間でリチャードは有名人なので、どのスーパーやお店に行っても、子どもたちから「リチャード!」とすぐに囲まれてしまうんですよ(笑)。

入り口からして楽しそうな雰囲気が漂うHALE ONO。

ーー地域の方の変化はいかがですか?

ラニさん:最初は、外国人だからということもあってか、なかなか地域に馴染めなかった部分がありました。でもHALE ONOがどんな場所なのかを徐々に理解してもらえたことで、地域の方ともコミュニケーションができるようになりました。

ボランティアや地域とつながりながら、子どもたちの笑顔と成長をサポートしたい

ーー今後、HALE ONOだからこそできること、していきたいことはありますか?

ラニさん:今後は「学習支援」の場にもしたいと考えています。ひとつは英語。リチャードというネイティブがいるから、自然な会話の中で英語に触れ合ってもらい、興味をもつきっかけが作れたらと考えています。水曜日のハンバーガーを提供する日は「リチャードとのやりとりは全て英語」がルールなのですが、この場でのコミュニケーションを機に、世界に羽ばたいてくれる子がいたら嬉しいですね。本を置くスペースも作りたいと思っています。食べたり飲んだりしながら、子どもたちがもっと自由に本を読んで、語り合い、くつろげる場所を作ってあげたいです。

当たり前のように英語でやりとりをする子どもたち

ーー豊中市内の他のこども食堂とのつながりはありますか?

ラニさん:うちが「面白い形態」なので興味を持って見学に来てくれて、実際にこども食堂を始めた方がいます。お互いに「物々交換」している団体もありますよ。本当は物だけでなく、情報交換や子どもたちの様子についてなど、もっとつながりをもてると良いと感じています。また、豊中には60のこども食堂と学習支援施設があるので、子ども向けのマップを作って、子どもたちがもっと居場所にアクセスしやすいようにしてあげたいですね。

ーーお二人の話を聞いていると次々とアイデアが出てくるのがすごいなと感じました。子どもたちや地域のために人生を掛けている、その情熱はどこから来るのでしょう?

リチャードさん:目の前に問題があるとき、私は動きます。体力的・金銭的に辛くなって、やめようと思ったこともあるのですが「来てくれる子どもたちが増えている=子どもたちにとって必要な場所の証」なのだと捉え、続けています。

ラニさん:ボランティアの皆さんが同じ想いを持って一緒に取り組んでくださっているので、その想いに応えたいというのもあります。スタッフにも「HALE ONOに入って良かった」と思ってもらえるような、団体・組織にしたいです。

この先、HALE ONOがずっと続いていくうちに、娘や子どもたちの中から「やりたい」という子が出てきたら、ぜひ継いでもらいたいし、新しい形で次の世代へ伝えていってほしい。そうしたら、その先の世界がちょっとは明るくなるんじゃないかなと思っています。

リチャードさん(左)とラニさん(右)の明るさとパワーも、地域のみんなを惹きつけている理由ではないかと感じました