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スタート 中部地方

移住して気づいた、子どもの居場所の少なさ…「多世代交流」をキーワードにみんなが集まる、地域初のこども食堂

清里いばしょベース Cha-ya 代表 高木 桂さん(新潟県上越市)
名称
清里いばしょベース Cha-ya
開催場所
新潟県上越市清里区武士1216
開催頻度
毎月第一土曜日

のびのびと子育てができる地を求めて新潟へ。しかし、そこには地方ならではの課題があった。

――こども食堂を始めたきっかけを教えてください。 

以前、東京で障がい児の福祉施設で働いていたときには、支援の対象が縦割りになってしまい、多様な人々が条件なく集い、交流する難しさを感じていました。そんななかで「こども食堂」の存在を知り、実際に見学へ行ってみたところ、色々な年齢の子どもや大人が自由に集っていることに感銘をうけました。「広くさまざまな人が集い交わることで、可能性や幅が広がっていく」と、こども食堂の存在意義を感じ、いつか自分でもやってみたいと考えていました。

その後、子どもの誕生をきっかけに、私たち家族は2021年に新潟県上越市へ移住しました。子どもには自然豊かな場所で育って欲しいと願い、一念発起して移住したのですが、暮らしてみて学校や家庭以外の場所での「子どもたちの居場所」が非常に少ない実態を知り、驚きました。

移住前は、子どもたちは学校が終わったら畑で遊んだり、山を駆け回ったりしていると勝手に思い込んでいたのですが、実態はまったく違っていました。上越市は積雪が多いからか、公園がとても少ないんです。さらに友達の家同士も離れていて、そう簡単に行き来できる距離ではありません。小学生などは、帰宅後に友達とオンラインゲームでつながって一緒に遊ぶ子が多いのだそうです。特に雪が降る冬などは、さらに外出も少なくなるので、もしかしたら外で過ごす時間は東京よりも少ないかもしれません。

そうしたなか、「こども食堂」の存在を思い出しました。私は移住してから地域おこし協力隊として活動していましたので、3年間の任務を果たした後、「色々な人が集える場所」としてこども食堂をつくろうと考えました。

運営者の高木さん。参加者と明るく交流している姿が印象的でした。

――助成金の応募時には「多世代交流拠点として機能させていきたい」とも書かれていましたね。「多世代交流拠点」という言葉には、どのような想いがあるのでしょうか?

この地域では少子高齢化が進んでおり、さらに外で遊んでいる子どもを見かける機会も少ないので、「子どもがもっといたら、にぎやかなのにな」などという声を聞きます。大人が子どもとふれあう機会を欲しているのではないかと感じました。

そこで「子どもの居場所=こども食堂」をつくり、そこへ大人たちにも自由に来てもらい、関わってもらうことで、「もっと子どもの声が聞きたい」という大人たちの希望も叶えたいと考えました。それが「多世代交流拠点」という言葉に込めた想いです。

食事以外の時間は、みんな思い思いに楽しむ姿が。自然と多世代の交流が生まれていました。

ーーこども食堂の立ち上げ準備段階で大変だったことはありますか?

大変なことだらけでしたが、周囲の人にサポートしていただいて、準備を進めることができました。私は周りの人に頼ることが少し上手なのかもしれません(笑)。私一人では何もできなかったと思います。

例えば、地域おこし協力隊でお世話になった方々に「今後、こども食堂を始めようと考えています」などとお話しすると「じゃあ、この人のところに行きなさい」「こうしたほうが良いよ」などと、何をすれば良いかアドバイスしてくださいました。行政からのサポートもあり、とても助かりましたね。

また上越タイムスというローカル紙の「あげます・ください」コーナーに「こども食堂を始めるので、不要な食器や使わなくなったおもちゃがあれば譲ってください」と投稿したら、どんどんと電話が来て、たくさんの物品をご支援いただきました。結果的にこども食堂を始める告知や仲間集めにもなったので、とても良かったと思います。

このように「やります」と宣言をして多くの人を巻き込み、お世話になったのは、自分自身の「退路を断つ」ためでもありました。始めるからには絶対に続けたい、途中でうやむやに終わってしまうことだけは避けたいと思ったんです。

ーーなるほど。高木さんの覚悟が伝わってきました。それでは、1回目の開催について聞かせてください。

こども食堂の1回目は、2024年3月2日に開催しました。この地域では、2月いっぱいは雪の季節。3月になれば雪解けしている想定だったのですが、前日に雪予報が出て…。

そして当日の朝は、予報通りの大雪。焦っていたら、ご近所の方がご好意で除雪しに来てくださって、とてもありがたかったです。オープン後は数人でしたが、どんどんと人数が増えて、雪のなか120人もの方が来てくださいました。おにぎりと豚汁を提供して、あっという間に1日が終了。燃え尽きた感じでした。

前日に思い立ち、息子さんと作ったという募金箱。

ーー120人とはすごいですね!参加者の反応はいかがでしたか?

地方ではいまだに「こども食堂=貧困対策」というイメージが根強く、こども食堂を立ち上げると話したときに、地域の方から「ここに困っている子はいないから、そんな活動しなくても……」というお声をいただいたことがありました。でも、その方が、1回目のこども食堂に参加してくださり「よくやってくれた!」と言ってくださったんです。実際にCha-yaで子どもたちと過ごす中で「貧困対策」とは違う、自由な居場所なのだと理解してくださったのだと思います。
別の方からは「こども食堂は大人と子どもの垣根なく過ごせる場所であり、みんなが『参加者』。ここが恩送りの場になっているね」というコメントもいただき、改めてこども食堂の価値を感じることができました。

縁が縁をつなぎ、やれることがどんどん広がっていく。これからも誰もが自由に集い、楽しめる場であり続けたい。

ーー本日、2024年9月7日で7回目の開催となりました。継続するにあたって、大変だと感じることはありますか?

Cha-yaでは、誰もが制限なく自由に来てほしいという想いから、事前受付を取らずに運営しています。予約のない方が来たときにお断りしなくてはならなかったり、自分で受付ができる人しか来られなかったりと、参加者を狭めてしまうことは避けたくて。
そのため、毎月「今回はどれだけ来てくれるかな?」とヤキモキはしてしまいますね(笑)。

でも、参加者の数に関係なく、その場に集まった人たちを大切にして、楽しく過ごせれば良いのかなと思っています。ここは毎回、違う場になっています。参加者によって場の空気が毎回変わるのが、面白いですね。

ーー高木さんがみなさんに場を委ねているからこそですね!最後に、今後こども食堂をどのように運営していきたいですか?

「参加者」も「関わってくださる方」も、そして「私自身」も楽しくいられる場でありたいですね。とはいえ「参加してくれている大人」と「そうでない大人」とでは、まだまだ温度差があります。地域の大人たちの「こども食堂」へのイメージを変えられるよう、地道に一人ひとりへの働きかけを続けていきたいです。

また、Instagramから「何かお手伝いできることはありませんか?」とメッセージをくださり、仲間に加わってくれた方もいます。想いに賛同してくださる方々とのご縁を大切に、今後も色々な人とつながりながら、こども食堂の可能性を広げていきたいと考えています。

古民家を改装し、民泊やコワーキングスペースも運営しているCha-ya。
今後、より多くの人の居場所として機能していきそうです。