「多世代が集い、笑い合える場所」をつくりたい。シニアサークルの仲間で立ち上げた平田“にこにこ食堂”

台所までにぎやかな笑い声が響く、地域の子どもと大人がふれあえる場所
――こども食堂を始めたきっかけを教えてください。
藤澤さん:私たちは高齢者サークルである「平田いきいきサークル」として、週1回の体操や月1回の食事会などを行っています。地域住民や子どもたちとの交流の場をつくろうと、過去に何度か、餅つきや踊りの会を企画しましたが、子どもの参加者が集まらず、残念に思っていました。
そんななか、釜石市のこども家庭課から「こども食堂をやってみませんか?」とお声がけをいただいたことが後押しとなりサークルのみんなと一緒に立ち上げに向けて、動きはじめました。
――サークルでこれまでも色々なことに取り組んできたと思いますが、こども食堂はまた新しい試みだったかと思います。立ち上げにあたり、不安だったことはありますか?
藤澤さん:初めに私が「こども食堂をやりたい」と言ったときには、サークルのメンバーから「子どもと接したいけど、どのように接したらいいのかわからない」「こども食堂なんて無理だよ」など、反対意見が挙がりました。この地区は高齢者の夫婦二人で住んでいる家庭が多く、自分の孫にすらなかなか会う機会がありません。子どもと接することから離れている人が多いため、身構えてしまったのだと思います。
山崎さん:毎月のサークルの食事会では、30人分くらいを調理しているのですが「倍の量になるので心配」という声や「子ども向けのメニューが必要になるけど、どうしよう」など、不安の声が出ました。
藤澤さん:ただ、私自身は子どもと大人が違うという考えは持っていなかったので「そんなに身構える必要はない。子どもも大人も同じだから、大丈夫だよ。まずやってみよう」と言い続け、そのうちにみんなが賛同してくれるようになりました。


ーー藤澤さんの強いリーダーシップがあり、皆さんも賛同されるようになったのですね。そうして立ち上げた「平田にこにこ食堂」というネーミングの由来は何でしょうか?
藤澤さん:田舎では「こども食堂」と聞くと「貧困」というイメージが強いので、子どもたちが気軽に誘いあって来られる場所にしたいと思い「“にこ食”に行かない?」などと簡単に言いやすい言葉にしようと「平田にこにこ食堂(=にこ食)」に決まりました。「みんなが集い、笑い合える場所になってほしい」という想いを込めています。
また、こども食堂では「ふれあい」が一番大切だと思っているので、メンバー一同、いつも「笑顔=にこにこ」でいることを大切にしています。
ーー今日の開催中も藤澤さんが「みんな笑ってね!」と声をかけているのが印象的でした。では、1回目の開催時について聞かせてください。
藤澤さん:2024年3月23日に、1回目を開催しました。子どもたちが来てくれるか不安だったのですが、行政や学校で開催告知をしていただいたおかげで、大勢の子どもたちが遊びに来てくれました。手作りのお手玉やボーリング、ボッチャなどで遊んだり、釜石市の市民歌を歌ったりと、盛りだくさんの内容でした。


ーー今日も釜石市民歌を皆さんで歌っているのが印象的でした。
昔の釜石市はにぎやかだったんですが、みんな外に出て行ってしまい、なかなか戻ってきてくれないんですよね。だからここで一緒に市民歌を歌うことで、大人になってから「おじいちゃん・おばあちゃんやお友達と一緒に歌った釜石市民歌」をふと思い出して、また釜石市に戻ってきてくれたらいいなと。都会で働いて、定年になってからでもいいからね。そんな想いを込めています。
ーー他のみなさんはいかがですか
鈴木さん:1回目を終えて、私は「みんなで心をひとつにしてできた。みんなでやればできる」って感激しましたね。調理が得意な人に調理を任せたり、飾りつけが得意な人にはテーブルの飾りつけをしてもらったりと、いきいきサークルのメンバーそれぞれが得意なことを活かして、一致団結してやり遂げることができました。
藤澤さん:小学校の校長先生には1回目から参加いただき、それからも毎回来て温かい眼差しで子どもたちを見守ってくださるので、とてもありがたいです。学校を通してお知らせできるようになったので、以前と違って、子どもが集まるようになったと感謝しています。
ーー子どもたちの反応はいかがでしたか?
熊谷さん:最初に1回来ただけの子が、道で会ったときに「あ、にこにこ食堂のおばちゃん!今度いつなの~?」と声をかけてくれたんですよね。覚えていてくれて、それはそれは嬉しかったです。
岩間さん:1回目に3歳の男の子が来てくれて「ここ座って」と急に洋服を引っ張られまして。最初はどうしようと焦ったのですが、自分の孫だと思って接したところ、すごく懐いてくれました。食事も好き嫌いなく何でも食べてくれて、アンケートにも「また来たい!来る!」と。実際に今日もまた来てくれたのですが、4歳になって赤ちゃんから少しお兄ちゃんに成長していました。何回も来てくれると成長も感じられて、嬉しいですね。
熊谷さん:毎回アンケートを取っていますが、「この間のカレーがおいしかったから、また食べたい」などと、子どもたちから嬉しい声が届いており、メンバー一同、回答を見るのを楽しみにしています。
「リーダーも素晴らしいけど、ついていく私たちも素晴らしい!」仲間がいるからこそ、続けていける
ーー本日、平田にこにこ食堂の様子を見学させていただいて、参加者はもちろんですが、運営されている皆さんも、とても楽しんで取り組んでいるというのが伝わってきました。もともとサークル仲間ということがあると思いますが、本当に一致団結していますよね。
岩間さん:私たちの年代になると、こうしてお友達と集まって何かをすることって、なかなか難しいんですよね。でも私たちはサークルに入っているから、一緒に協力しあって、何でもできる。映画を観に行ったり、コーラスを聴きに行ったり、最近では介護施設でのボランティア活動にも行っています。いつもみんなで支え合っていますよ。こども食堂もやるまでの準備は大変ですが、私たち自身も楽しくて、つまりは自分たちの健康につながっていると思っています。

ーー皆さんを見ていて、仲間がいることの大切さを改めて感じました。最後に、今後こども食堂をどのように運営していきたいですか?
藤澤さん:大きな欲はありません。みんな健康で、この調子で、無理せずに長く続けられればいいですね。ただ、私たちは高齢なので、次のバトンを受け取ってくれる人が現れることにも期待しています。
佐藤さん:そのうち、今は参加者として来ている親御さんたちにバトンタッチして、笑顔の輪が、この先もずっと続いていけたら嬉しいです。