みんなの生活の中に「当たり前」にあるこども食堂~夫婦の人生まで変えてはじめた「こども食堂」が、人と地域を動かした!~
北海道から鹿児島、全国さまざまなこども食堂を見学して感じた「自分の地域でつくりたい」という強い想いと決意。
ーこども食堂を最初にたちあげたいと思われたはじめのきっかけは何だったのですか?
英宏さん:私は前職は土木関係の仕事でしたが、もともと保育士の専門学校に通ってましたし、こどもに関わる仕事がしたいというのは前からありました。そんな中、当時まだこども食堂の数が今ほど多くなかった2015年頃に、ワーカーズコープで取り組まれているこども食堂の存在を知り 、自分のやりたかったことはこれだ!と思いました。さっそく職場にかけあい、北海道から鹿児島など全国さまざまな場所のこども食堂を見学しに行かせてもらったんです。そのときに出会った子どもたちや保護者、そしてサポートしている方々の表情が本当にいきいきとしていて、学校でも塾でも家でもないひとつの居場所があるんだなということを感じて強く心を動かされました。もうこの時点で、「自分の地域でこういう風にこどもたちと関われたらなぁ」という気持ちにすごくなったんです。
それから立ち上げに向けて考えている中、ちょうど山口県のこども食堂の設立サポートを担当されている職員の方に出会いました。その方から実際に運営している方の話や設立についての話を聞くうちに、「もうやるしかない」という決意にかわったという感じです。
――その後、こども食堂設立までの流れを教えてください。
英宏さん:観光スポットでもある白壁の町並みにこども食堂ができたら、こどもがここに来る目的ができるなぁと漠然と考えてました。観光客もそうですが地元の人、こどもたちが賑わう場所にしたかったんです。
そして、2019年こども食堂を始める為に、今の仕事でもある「やないろ」という飲食店を開業しました。こども食堂をやりたいから、飲食店を始めるという順番だったんです。
ーこども食堂を目的とした飲食店のスタートだったんですね。ご主人の話を受けて、瑞穂さんの気持ちはいかがでしたか??
瑞穂さん:びっくりはしましたけど、反対とかはなかったですね。逆に何も知らない状態でしたので「やるしかない」と覚悟を決めました。あっという間に四年半以上が経ち、今に至ります(笑)。そもそも、夫婦ともに飲食業の経験がなかったので、こども食堂の立ち上げに備えて、まずは経験を積みたいと考え、お店自体もはじめたんですが、今思えばおそろしい挑戦だったなと思います(笑)。こども食堂をオープンするぞという気持ちがないとできなかったですね。
英宏さん:ところが、半年経った頃にコロナがあり、お店の継続も危ぶまれる状況に…。コロナ禍は、子ども達にとって二度と戻らない大切な時間に「さまざまな体験の機会」が奪われ、子ども達の笑顔が消えてしまい、今こそなんとかしたいという気持ちが強まりつつも、生活とお店の両立も難しく、なかなかこども食堂が始められない状況が続きました。
ただ、赤い羽根共同募金会の「子どもたちの居場所づくり」に応募したことがきっかけとなり、地域の方々が自然と集まってきてくださったんです。地域のみんなで居場所づくりに取り組もうという流れになり、 ボランティアメンバーの皆さんに支えていただいて、こども食堂を立ち上げることができました。笑顔が消えたコロナの時期にこども食堂を開催したからこそ、マスクを外して笑顔になった子どもたちを見ることができました。大変な時期だったからこそ、開催する意義があったと心から思いました。


――「寺子屋」も開催されているんですよね?
英宏さん:『食』の活動としてこども食堂を開始した後、地域の中で「寺子屋をやりたい」と言ってきてくださった方がいて、『学』の活動として寺子屋を始めました。さらに『遊』の活動として体験教室などの交流・ワークショップも幅広く展開しています。地域の「やりたい」という声と子ども達を結びつける場所になればと考えています。
――開始当初、「こども食堂」に対して、地域の反応はいかがでしたか?
英宏さん:柳井市では2番目のこども食堂の設立でしたが、当初は「生活困窮者支援事業」というイメージが強く、保護者の方から「子どもたちに行ってほしくない」「かわいそうな子どもたちの場所」というニュアンスの声も聞こえていました。活動をしながら「かわいそう」という言葉を多く聞きましたが、その表現や偏見には違和感があり「こんなにもこども食堂の印象って貧困者対策とたたかわなくてはならないんだ」と驚きながらも、「子ども達の心地よい居場所」を作ってそれらのイメージを拭い去りたいという想いが強くなりました。
開催を続けるうちに、一家で来て地域コミュニティでの交流を楽しんでくださる方がいて、さらに他のご家族へ声かけをしてくれて。その次には子どもたちだけで来るようになり、次第に子どもたちが友達へ発信してくれて、どんどん参加者が増えていきました。そのうち、こども達の「すごい楽しい場所」「楽しいから行く場所」と口コミで広がっていき、今までのイメージは払拭されていったんです。それが嬉しかったですね!


――「こども食堂」はどのように運営していますか?
英宏さん:私たち夫婦が中心となって運営し、調理は妻とボランティアの皆さんに担当いただいています。登録しているボランティアスタッフが約20名、登録していないけれど手伝ってくださる方が更に約20名います。私は子どもたちから「マスター」、妻は「みっちゃん」と呼ばれています。
瑞穂さん:料理は私が担当しています。まったくの素人からのスタートでしたが、料理が上手なママ友さんに教わりながら、そしてこども食堂のボランティアの皆さんに支えていただきながら、皆さんのおかげでここまで続けられています。また、子どもたちもメニューを考えるなど、運営側に参加してくれているのが私たちのこども食堂の特徴だと思います。今や「これが食べたい!」「次はこのメニューがいい!」など言いたい放題(笑)。でも、言ったからにはみんなで作るよ!と楽しんでいます。



――子どもたちが運営に参加するようになったきっかけは?
英宏さん:大きな転機となったのは、一人の男の子の参加です。小学校6年生のときに初めてこども食堂に来て、ある日大きないたずらをしたので、私が怒鳴りつけたことがありました。そのとき彼が「怒ってほしかった」と言ったんです。自分を見てほしいという想いで、ついとんでもないことをしてしまったと。その彼が「こども食堂=自分の居場所」だと心から思ってくれるようになり、周りにどんどん声をかけてくれました。そこから輪が広がり、参加者が増えていきました。次第に参加する子どもたちが主体的にメニューや運営方法を考えるようになり、今では一緒に運営しています。 自分より年下の子どもたちにご飯を作ってあげたり、食後は絵本やおもちゃで遊んであげたりと、小さな子の面倒もみてくれています。



――子どもと一緒に運営している今の状況を、どのように感じていますか?
英宏さん:一緒になって考え、準備の課程も楽しみ、最後の片づけまで、みんなで楽しく取り組んでいます。当初は子どもたちの居場所づくりために始めたつもりでいましたが、まさか、こんなにも子どもたちに支えられることになるとは思っていませんでした。
子どもたちの中には、「将来学校の先生になりたいからこういうことをやってみたい」「料理人になりたいから企画をやりたい」など、目的を持ってこども食堂での活動に取り組んでいる子もいます。私たちは、子どもたちのそんな声を一つひとつ丁寧に受け止め、耳を傾け、 行動に移すことを大切にしています。そして子どもたちから「この人たちに言ったら、もしかしたら実現できるかもしれない」と思ってもらえる関係を築けているのは、私だけでなく団体メンバー一人ひとりが同じ想いで子どもたちに接しているからだと感謝しています。
「共感」の気持ちから自然と輪が広がっていく。地域全体で育む、これからのこども食堂
――地域の他のこども食堂との連携はいかがですか?
英宏さん:山口県のこども食堂は213(令和7年12月現在)を超えたため、9つのエリアに分けて会長を据え、県と連携する仕組みがあります。そのうちの1エリアとして、2025年2月に地域団体「サザンセトこども食堂ネットワーク」を発足し、会長として現在16の団体を統括しています。フードパントリー型や寺子屋型など、さまざまな形のこども食堂があることを改めて実感しています。いつも同じ場所で活動していると見えない部分もあると思うので、仲間をつくりながら意見交換を行い、視野を広げていきたいですね。課題も共有し合い、できるところを一緒に伸ばしていくことにも取り組みたい。今度は大きな公園で、各地区の遊びを持ち寄って共有するイベントを予定しています。自分の地域では当たり前でも、他の地域では知らない遊びを伝え合い、地域全体でできることを増やしていきたいです。

――地域の皆さんからのサポートはいかがでしょうか?
英宏さん:設立当初は助成金で運営していましたが、現在は地元企業の方から寄付金を受けて運営しています。自分自身で企業を訪問するなどの営業活動はしたことはないのですが、日常生活の中で出会う方にこども食堂の話をすると、共感をした方々がまた他の方へと話してくださり、ありがたいことに自然と支援の輪が広がっていきました。その他、地元のお肉屋さんが段ボール箱いっぱいのお肉を送ってくださったり、農家さんが野菜や果物、お米を届けてくださったりと地域全体からあたたかいサポートを受けています。


――設立から4年半が経ちましたが、ご夫婦で決めているルールはあるんですか?
瑞穂さん:これまで「ルール」は考えたこともありません。お互いが大切にしたいことを認め合い、気持ちでつながっているから、ルール不要なのかと思います。ルール不要というのは、夫婦に限らず、こども食堂を続ける上で大切なポイントかもしれません。
――今後はどのようなこども食堂を目指しますか?
英宏さん:こども食堂は、まるで生き物のような存在です。食事をすることだけが目的ではなく、心を通わせる場であり、「心を持って帰ってもらいたい」というのが一番の願いです。困っている人の支援ではなく、地域全員の居場所になる――そんなこども食堂を育てていきたいと思っています。
もちろん、すべて私たちだけでできるわけではありません。これまでも「やりたい」という想いをつなげていくことで、自然と地域の中でのコミュニティが形づくられていきました。今後も地域の中で「できる人」「やりたい人」が活躍できる場をつくり、繋げていくことで、地域の仲間を増やしていきたいです。
当初は子どもたちを支えるつもりで設立しましたが、今では子どもたちに支えられていると感じます。これから先、今の子どもたちが大人になったとき、自分の地域で新しいこども食堂をつくってくれたら ――そんな未来も楽しみにしています。