「頑張らなあかん!」お店のお客さんが背中を後押し。子どもたちの笑顔が集まる会場は、街の元気な居酒屋さん。

自分が救われた時の感謝を今、こども食堂を通じて多くの人に「恩おくり」がしたい。
――こども食堂を始めようと思ったきっかけについて、教えてください。
私が二人目を出産直後、子どもがNICUに入院する事態となり精神的に落ち込んでいたときに、京都市が提供する産後のデイケアサービスのおかげで、体調や気持ちの面ですごく救われた経験がありました。その子が二歳になり、子育てが少し落ち着いてきたころ「あの時に助けてもらった恩返しとして、何か困っている人に自分ができることはないか?」と考えるようになりました。
そんなある日、友人と子どもと一緒に出かけた公園で、小学校低学年ぐらいの女の子が一人で遊んでいるのを見かけました。一人で公園に来て、一人で遊んで、どこかに走って消えていってしまった様子を見てふと心配になりました。後から知ったのですが、実はその子の親が病気の為、毎日食事を用意することが難しく、その子一人でスーパーへ買い物に行ったり、土日はカップ麺で過ごしたりしているということでした。その時は自分がどんな立場で声をかけてよいかわからず、何もできなかったのですが「サポート団体をつくれば、目の前にいる子に正面から声をかけられる!」と思ったのが、 こども食堂誕生のきっかけとなりました。
子どもたちが安心して過ごせたり、温かいご飯を誰かと一緒に食べられたり、栄養の整った食事を美味しく食べられる場所を提供したいと考えたのです。私は通信制高校で教員をしていて、家庭科の授業の中で「子どもの貧困」について授業をしていたので、関心が高まっていたことも影響したかもしれません。
――実現に向けて、どのように動かれたのですか?
知り合いが小学校のすぐ近くで居酒屋を経営していて、駅にも近いという好立地のため「こども食堂を一緒にやりませんか?」と声をかけたところ、快諾いただきました。今は共同代表として、一緒にこども食堂を運営しています。名前が「乙野豪」なので、下の名前をもじって、店名は「立呑みごうちゃん」。そして、こども食堂の名前は「ゴーゴー!こども食堂」となりました。子どもたちからは「ゴウちゃん」「ユイちゃん」と呼ばれています。
――こども食堂の立ち上げに向けて準備を進める中で、大変なことはありましたか?
「広報」が一番大変でした。私たちの場合、会場が公共施設ではなく「居酒屋」ですので「居酒屋で、知らない人の作ったご飯を食べるのが怖い…」と子どもたちやご両親に思われないように、うまく告知をする方法を検討しました。都市部なので「知らない人に声かけられても、相手したらあかんで!」などと言われて、子どもたちは育っているはずなので。
――「信用してもらう」というのが難しいですよね。具体的にはどのように告知したのですか?
まず、居酒屋の店内に「告知チラシ」を掲示したところ、居酒屋に来ている常連さんが、皆さんすごく親身になって相談に乗って考えてくださって「ゆいちゃん、こんなんしたらどうや?」「深草小学校が近いから、校長先生に直談判に行ったら?」など、アイデアを出してくれました。お客様の後押しもあって、最寄りの小学校の校長先生にプレゼンに行きました。「地域のためにこども食堂を運営したいので、ぜひ学校アプリで告知してほしい」と直接伝えてご承諾をいただき、半年間、アプリで告知していただきました。

――お店のお客さんの後押しが素晴らしいですね。
お店のお客さんは応援してくださる方が大半で、親身になって話を聞いてくださるし、「うちで野菜作っているから、必要になったら言いや」など声をかけてくださいます。「頑張らなあかん」って背中を押していただくことが、すごく多かったですね。
家でも学校でもない。近所のおじちゃんおばちゃんがあったかく話を聞いてくれる「第三の居場所」を作りたい。
――開催日はどのように運営されているのですか?
椅子席が十席のみのため、11時・12時・13時の三回転で運営しています。小学校高学年~中学生は子どもだけで来ることもありますし、お母さん・お父さんが幼稚園や保育園のお子さんを連れてくることもあります。1日あたり最大30名を受け入れているのですが、食べ盛りの子どもたちに「おかわり」をしてほしくて、40人から50人分を作って待ち構えています(笑)。中でもカレーが一番人気ですね。私がメニューの検討や集客などの運営面を担当し、乙野さんは調理を共に担当しています。


――参加者の反応はいかがですか?
リピータ―が非常に多いので、きっと皆さん、めちゃくちゃ楽しみにしてくれているのではないかと思っています。代表の乙野さんはユーモアのある「面白いおじさん」なので、子どもたちとの距離も近く、下校中に乙野さんに声をかけて行ってくれる子もいるようで「良い交流」が生まれていると感じています。何かあった時に、親でも先生でもなく「第三者のおじちゃんおばちゃん」に話を聞いてもらえるって、あったかくって、本当のいい場所だなって思うんです。昼間にこども食堂がある日は体力面で大変だと思いますが、乙野さんご本人もすごく楽しんで取り組んでくれています。

――お二人以外に、運営をサポートしてくださるボランティアの方はいるのですか?
最初は居酒屋に貼ったチラシを見た常連さんが「手伝います」と言ってくださり、そこから毎回来てくださるようになりました。その後は私の知人も増えて、今はボランティアとして11名が登録してくださっています。
――周りの人たちを「ぜひ手伝いたい」という気持ちにさせる何かがきっとあるんだろうなって、今お話を聞いていて思いました。こども食堂を運営していて、一番のやりがいは何ですか?
自分で考えて作った食事を「美味しかった」って喜んでくれるのもやりがい感じますし、もう一度来てくれて、またその子たちに会えることが、私としては何より嬉しくて。親になったような気持ちで「大きくなったね」と。子どもたちの成長に寄り添える、そこが一番のやりがいです。

通信制高校の生徒たちや地域を巻き込んで、交流の渦を作りたい。
――今後の展望を教えてください。
今度の土曜日に、私が働いている通信制高校の生徒たちがこども食堂を手伝いに来てくれます。大学も近くにあるので、実際に調理してみてもらったりとか、子どもたちと関わってもらったりとかして、もっと地域の人々を巻き込んで、さらに良い「交流の場」を作りたいというのが、今後の展望ですね。子どもたちにとっては、身近なお兄さん・お姉さんに会える機会になるでしょうし、お兄さん・お姉さんにとっても「年下の存在」がどんな風に響くのかが楽しみです。また、子どもだけでなく、誰でも来ていただきたいといつも思っているので、もっとメッセージを発信していきたいですね。
――最後に「これからこども食堂を立ち上げたい」という方に向けて、メッセージをお願いします。
自分一人だけで何かを成し遂げようと思うと何事も大変だと思いますが、声を上げることで、賛同して手伝ってくださる人、力を貸してくれる人ってきっと近くにいると思います。「やりたい」と思ったその気持ちさえあれば、絶対に何でもできる。気持ちを大事にして、ぜひ仲間になりましょう